<スクープのためなら女性は情報源とも寝る──そんな偏見を強めた『リチャード・ジュエル』とその共犯者たち>
クリント・イーストウッド監督の最新作『リチャード・ジュエル』(日本公開は1月17日)が、激しい批判にさらされている。女性記者の描き方が、ひどくステレオタイプ的だというのだ。
この作品は、1996年アトランタ五輪の爆弾テロ事件をめぐる実話に基づく。警備員リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)は爆弾の詰まったリュックを発見し、警察に通報して多くの命を救う。だがメディアから、爆弾を仕掛けた張本人ではないかと疑われる。
以上が本作の粗筋。しかしそこへ、地元紙アトランタ・ジャーナル・コンスティテューションの女性記者キャシー・スクラッグス(オリビア・ワイルド)が、情報を得るためにFBI捜査官と性的関係を持つというエピソードが入る。スクラッグスは実在の記者で、2001年に亡くなっている。彼女の元同僚たちによれば、このエピソードは事実ではない。
本作の制作陣はこの話を省くこともできた。ストーリーの本筋とはほとんど関係がないからだ。だが筆者は、このエピソードがわざわざ入れられたことを意外には思わない。
私はメディア論の研究者で、大衆文化における女性ジャーナリストの描かれ方を分析してきた。その結果、厄介な傾向を見つけた。テレビドラマや映画の中の女性ジャーナリストは、情報源や同僚の男性とやたらと恋に落ちるのだ。
この傾向は無声映画の時代から見られる。1912年の『ザ・スクープ』では、女性記者が大富豪を独占取材するために性的魅力を利用する。
時代を経ても傾向は変わらない。2005年の『サンキュー・スモーキング』では、女性記者がオフレコ発言を報じたとして情報源の男性から文句を言われる。「オフレコだなんて聞いてない」と言う記者に、男性は「君の『中』に入っている間のことは全て秘密だと思ってた」と応じる。
18年のテレビドラマ『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-』では、女性記者が男性刑事だけでなく未成年の容疑者とも関係を持つ。『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(13〜18年)でも、女性記者が特ダネを追うため政治家と寝る。この類いの作品は、いくらでも挙げられる。
免責されない免責事項
女性記者のステレオタイプな描写には、とてつもない悪影響がある。まず、女性は男性に比べて取材力が劣っているために性的魅力を利用しているという誤解を生む。さらに、女性記者はスクープのためなら何でもするというイメージも与えかねない。
『リチャード・ジュエル』について特筆すきなのは、実在の記者が倫理に反する行動を取ったかのように描いた点だ。亡くなったスクラッグスに反論の機会はない。彼女が属していた新聞社は、本作が彼女を「性を取引する存在」におとしめており、「虚偽で悪質」だと批判している。
製作のワーナー・ブラザースは、毎度の免責事項を繰り返すだけだ。「この映画は歴史的事実に基づいています。会話や出来事、人物は作品化に当たり脚色されています」
問題はそこにある。実話に基づいて作られた作品の中のどこが嘘で、どの部分が脚色された事実なのか、観客はどうやって見分ければいいのか。
メディアが無実の市民を追い詰める怖さを描いた映画が実在した記者をおとしめるとは、何という皮肉だろう。
Joe Saltzman, Professor of Journalism and Communication, University of Southern California, Annenberg School for Communication and Journalism
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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