令和最初の紅白で一番輝いたのは、誰よりも自分に正直なこの人だった―。
昨年の大みそか午後11時16分。東京・NHKホールでの「第70回紅白歌合戦」の大舞台で氷川きよし(42)がデビュー20周年記念シングル「大丈夫」と「限界突破×サバイバー」のメドレーを歌い上げた。
「デビュー以来の氷川ファン」という声優・野沢雅子(83)の「絶対、聞いてくれ!」というコールで送り出されると、最初は紅白に染め抜かれた着物姿で「大丈夫」を一節、歌唱。白いスモークに包まれた後はロックスター風の真っ黒な衣装に早変わり。「限界突破―」を激しいヘッドバンキングまで披露して熱唱した。
ばっちりメイクも汗で流れ落ちるほどのパフォーマンスの後は「フー」と息を吐き出すと、会場のファンに投げキッスまでして見せた。そこには、最高の舞台で最高の歌を披露したものだけが持つ輝きがあった。
その3日前のこと。私は斜め後ろ50センチほどの距離から氷川の背中を見つめていた。場所も同じNHKホールで行われたリハーサル。午後5時、2000年のデビュー以来20年間、「演歌のプリンス」として絶大な人気を誇ってきたトップスターは、とてもいい匂いがする香水の香りとともに待ち構えた約70人の記者の前に現れた。
ばっちりメイクとおしゃれなブラックで彩られたネイルで笑顔を振りまく人気者は今年、様々な意味で「限界突破」してきた。
5月にYouTubeで公開したアニメ映画「ドラゴンボール超」の主題歌「限界突破×サバイバー」の歌唱では、細い眉にメイクの妖艶な外見が大きな話題を呼び、再生回数400万回を超えた。
8月8日のヤクルト―阪神戦の始球式に登場した際にはムダ毛が全くないショートパンツ姿で「美脚」を披露。同月に日本テレビ系「スッキリ」に生出演した際には、自らを「あたし」と呼称。耳目を集めた。
同30日の大型アニソンフェス「アニサマ2019」には足、胸、腕がシースルー素材の全身真っ黒なビジュアル系衣装で登場。11月には「kii(きー)」名義でインスタグラムを開設。純白のウェディングドレス姿などを披露し、フォロワー数も13万人突破と、大きな話題を呼び続けている。
今回のリハーサル後の取材でも1年間に渡って中性的な魅力を振りまいてきた、その口から、なんらかの“カミングアウト”があるのではないかと、集まった記者たちは口々にうわさし、待ち構えていた。
しかし、178センチの長身を黒のロングジャケットで包んだ本人が約10分間に渡って口にしたのは、そんな下世話な予想をはるかに上回る、いい意味で「衝撃的な」言葉の数々だった。
まず、「本当に今年は最高の1年でした。最高の締めくくりで70回と素晴らしい節目の紅白歌合戦に(デビュー)20周年の自分が出させていただいて。感謝の気持ちでいっぱいです。久しぶりに緊張して、すごい震えちゃって…」と、記者たちに実際にブルブルと震えている両手を見せた。
「言えないんですけど、演出が大変なことになってます。紅組のような、白組のような。皆さんが期待してくれるようなものになると思います」と明かした氷川。「紅組のような。白組のような―」という言葉に、私は正直、「男女の性差を超えたなんらかの発言をするのでは―」と身構えた。
そんな周りの思惑をよそに、まっすぐ前を見て言葉を続けると、「ずっと、イメージ付けされてきた部分があったから、今までイメージされていた氷川きよしというイメージをぶち壊したいという気持ちがあった。今までの氷川きよしは氷川きよしでバックボーンとして毎日、一生懸命やってきたんですけど、20周年を迎えて、時代も変わって、自分らしく、ありのままの姿で音楽を、自分を表現したいって」。そう一気に話すと、「どうしても人間って、カテゴライズしたり、当てはめよう、当てはめようって、人と比べたりする傾向があると思うんですけど、そこの中でやっているのはすごく苦しいです」と正直に続けた。
「そのために今年初めから自分の中で決意していて。本当の自分を表現しよう。ありのままの自分を表現しようって。もっと、自分の中に持っているもの、自分の才能、持っているものを、もっと生かせたらいいなって。全部、表現しようと決めたんです。限界突破で、このドアを開こう。誰も切り開いていない道を1人で切り開くのは大変だけど、摩擦とか怖がっていたら、次のドアは開けない。自分の個性、命を大事にして、人を励ましていけるアーティストでいたいんです」と熱弁した。
「これからはきーちゃんらしく、きよし君にはちょっと、さよならして。きーちゃんとして、私らしく。より自分らしく、ありのままの姿で紅白で輝きますから、それを見て皆さんも輝いて生きて下さい」と話すと、最後の最後に「私は自分に負けません」―。本当にきっぱりと言った。
多くの記者が殺到したため、気づくと、氷川の真後ろに位置する形になった私は一言、一言を自分の言葉ではっきりと話し続ける、その背中を見つめ続けた。冒頭に手の震えを見せたのと同様、その背中は明らかに緊張でこわばっているようにも見えた。
そして、黒い衣装できめた、そのスタイリッシュとしか言いようのない背中を見つめながら、記憶は20年前にフラッシュバックした。
氷川を初めて取材したのは00年、「箱根八里の半次郎」でデビューした際の東京・氷川神社でのイベントだった。当時、私は映画担当記者として、「氷川きよし」という芸名の名付け親となったビートたけし(72)を映画監督・北野武として密着マークする日々だった。
デビューイベントに同席した、たけしに「きよしと言う名前は相方のビートきよしさんから取ったんですか?」と、そっと聞くと、「全然、違うよ。最初に(氷川が所属する長良プロの)長良(じゅん)社長に『コイツが氷川きよしだ。たけし、名付け親になってくれ』って、いきなり紹介されたんだよ」と、あっさり返された。すでに芸名が決まっていたという裏話に驚かされたことを、はっきりと覚えている。
それから20年がたった。男女の性差、性的志向の違い、身体的・精神的な障害の有無、貧富の差―。世の中に厳然として存在するそうした差別的なものの見方にアイドル並のルックスで演歌を歌う「貴公子」として振る舞うことを常に要求されてきた歌手が内面で、どれほど苦しんできたのか。
約10分間の会見で氷川が口にした「カテゴライズ」「すごく苦しい」「命を大事に」「自分に負けません」などの晴れの紅白会見には似つかわしくない言葉の数々。そんな言葉たちが鈍感な私にすら、その20年分の苦悩の深さを教えてくれた。
そして今、女性ファンのハートをわしづかみにしてきた「演歌のプリンス」が1人の人間として、自分に正直に「ありのままの私」として、新しい一歩を踏み出そうとしている。その姿は性差に始まるあらゆるカテゴリー分けなんて、はるかに超越していて、潔くて、美しくて、かっこいい。
令和最初の大みそかに紅白の大舞台で「ありのままに生きる」覚悟のもと、熱唱した氷川。やり切った後の投げキッスが、私に「本当に美しいもの」が何かを教えてくれた。(記者コラム・中村 健吾)
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January 01, 2020 at 11:00AM
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「きよし君にさよなら」紅白の大舞台で見た氷川きよしの覚悟…美し過ぎた熱唱後の投げキッス - スポーツ報知
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